特別連載企画『失敗の本質』から何を学ぶか(2) 

【第2回】 

フランス革命以前の王朝国家時代の戦争様相 

 「戦略」の語源は、ギリシャ語の「ストラテゴス」で、「将軍たちの仕事」という意味でした。「戦術」は、「タクチトス」で、「部隊の配置に関する」とか「指図する」という意味でした。

  しかし長い間、その概念規定は曖昧で、その境界領域は明確ではありませんでした。明確な「戦略・戦術」の概念規定がなされるようになったのは、フランス革命を境にしてと考えてよいでしょう。

  それはフランス革命を分水嶺にして、革命以前の専制君主の王朝国家の時代と、革命以降の共和制の国民国家の時代とでは、戦争様相が大きく変貌してきました。

  フランス革命の前後において軍事技術的な進歩発展の度合いは、それほど顕著な差異は生じておりませんでした。著しい変化がありましたのは、人間の意識でした。人民と国王との関係とは異なり、国民国家が生まれて人民ではなく「国民」という意識が生まれました。

  そしてルソーが提唱しました「国民国家を支える徴兵制度」が施行されますと、「国民意識」が芽生え、「自分たちの共和国家は自分たちで守る」とい考え方が次第に普及し、「自由・平等・博愛という革命の理念を守る」というイデオロギーが生まれてきました。このイデオロギーという眼には見えない人間の意識が、戦争の様相を変化させることになりました。

  革命以前の王朝国家の権力維持のための軍事力は、戦争請負業者である傭兵隊長がソルドという貨幣でリクルートしてきた傭兵たちに厳しい教育訓練を施し、国王の面前で威風堂々たるパレードをして見せ、軍事力としての商品価値を誇示し相当の対価をもって雇用契約を結んでいたものが一般的ありました。

  したがって国王と傭兵隊長との関係、傭兵隊長と傭兵たちとの関係は、いずれも「ソルド」という貨幣を媒介とした経済的な関係であって、忠誠心を媒介とした精神的な関係ではありませんでした。傭兵たちはソルドという貨幣で雇われるので、「ソルジャー」と呼ばれたわけです。

  ソルドを媒介とする経済的な関係でありますので、傭兵隊長の国王に対する忠誠心は必ずしも強固なものではありませんでし、また同時に傭兵たちの雇い主である傭兵隊長に対する忠誠心も極めて希薄でありました。

  でありますので傭兵たちは、平時において身に危険が及ばないパレードなどでは、一糸乱れぬ威風堂々たる威容を顕示することができるのですが、一旦緩急ある戦時において己の生命を懸けて戦場と言う修羅場において、作戦・戦闘に真剣に行動してくれるかどうかは極めて不確実不透明な厄介な軍隊でありました。

  一方傭兵隊長にとっても、傭兵隊というのはソルドで雇ってきた傭兵たちで構成する商品でありますので、現実の作戦・戦闘で不用意に戦って損害を蒙りますと、商品価値を減ずるわけですから好ましいことではありませんでした。

  また傭兵隊を抱えている国王にしても、限られた国家財政の中からソルドを工面して傭兵隊長と雇用契約を結ぶのですから、自己の権力基盤である傭兵隊が損害を蒙るような激烈な作戦・戦闘に巻き込まれる事態に陥ることは極力回避したいというのが本音でした。

  ですから王朝国家どうしの紛争は極力外交交渉で解決し、武力を行使しなければならない場合においても、真面目な本格的な戦闘は望まないし、また実行も難しい状況でした。ソルドで雇われているだけですから傭兵たちは、視界不良の夜間や山林、そして錯雑地などでは逃亡の恐れがありますので、そのような条件での作戦・戦闘は実行不可能でありました。

 戦場は昼間の視界良好な平地に限られ、密集隊形で周囲を下士官で取り囲み、傭兵たちが逃亡できないように威圧しながら戦わなければならない真に厄介な軍隊でありました。敵よりも味方の下士官の剣を怖れさせて、規律を維持させるなければならない状態でした。

 また傭兵たちには十分な飲料水・食料や医薬品を適時に補給して、士気を喪失しないよう配慮しなければならず、兵站補給の策源地から戦場に至る後方連絡線を安全に確保することが、作戦・戦闘の絶対的な前提条件でありました。

 したがって戦場における兵力配備の態勢が、何れかの側に決定的に有利な戦況が生ずれば、戦いの場を戦場からテーブルの上に移して、外交交渉によって紛争課題を解決しようとするのが、王朝国家どうしの戦争の一般的な傾向でした。

  ドイツの軍事史学者デルブリュックは、このような武力の行使を抑制した王朝国家時代の戦争様相を「持久戦争」と、そしてそこで用いられた戦略を「消耗戦略」と命名しました。

  この戦争様相がコペルニクス的な転換を遂げるのは、フランス革命が転換点になりますが、次回はその激烈な変貌の軌跡を垣間見てみましょう。


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