(5)阿部裕志氏

人と人、人と自然の結びつきを通じて、

地域おこし、人づくりを目指す

【後編】

株式会社巡の環 
代表取締役 

阿部 裕志 氏

 

  3つの事業の柱を立てた巡の環。その中で、阿部さんが最も力を入れているのが教育事業です。海士五感塾、東京財団週末学校、島地域インターンプログラム、 ラーニングジャーニーin海士などの意欲的な取り組みは、島の人たちにどう受け入れられ、また、島外の人たちや社会に向けてどのようなインパクトを与えたのでしょうか。インタビュー最終回は、阿部さんが投げかけた生き方・働き方・学び方の意識変革をより詳しくご紹介します。




● 島を学ぶプログラムが

  島外とを結ぶ太いパイプを築く

  
  巡の環が手掛ける3つの事業のうち、阿部氏が「本当にやりたいこと」という教育事業。果たして、海士五感塾、東京財団週末学校、島地域インターンプログラ ム、ラーニングジャーニーin海士は、海士町と島外をどう結び付けようとしているのか。さらに、この事業が地域おこしにおいてどれほど期待できるのか。

 「観光よりも学びのほうが続けられるし、地域おこしの可能性が高いと思っています」

 観光となるとほかの観光地との競合になる。誇るべき歴史文化と豊かな自然があるとはいえ、圧倒的に優位とまで言うのは難しい。だが、島を学びの場とすれば、単なる観光地以上の魅力を持たせることができる。

 教育事業の軸となる海士五感塾は2008年から始め、年間2~3回のペースで開催している。学ぶ側にも受け入れる側にも、もはやなくてはならない存在になっているようだ。

 「たとえば、命をかけて漁を行う定置網漁船のトップである漁労長が自分の思いや価値観を語ると、企業の人たちは大変な感銘を受けます。語るほうも『企業の偉いさんたちが何を感じたんだろうか』と疑問を持ちながらも、『次はいつやるんだ』と楽しみにしてくれています」

 海士五感塾はボランティアでなく、事業である。だから漁労長や神主、そのほか地域の人で講師になってくれた人たちにはきちんと報酬を支払う。その道のプロとして敬意を払い話をしてもらうのである。

 地域の中だけで発想すると、なあなあになりがちな部分だ。巡の環はしっかりビジネスとしてとらえる。そういう視点も海士五感塾を続けていくうえで重要な要素だろう。

 ラーニングジャーニーin海士のプログラムでは「対話」が主軸となる。たとえば受講生が島の中で起きていることについて仮説を立て、それを検証していく。

  ある受講生は「海士町の活力は住人が海士町が好きであるところから湧き出している」と仮説を立て、あなたは「海士が好きですか」と書いたボードを首から下 げ町中を歩いて40人に聞いて回ったそうだ。その検証の結果、「海士が好きという気持ちは大事だが、それだけでなく海士に誇りを持っている」と気づいた。

 ラーニングジャーニーの手法は海士五感塾の中にも採用している。

 「対話の質を上げていくことが海士五感塾のプログラム全体の質を上げていくことにつながるのです」

 一例をあげると、海士五感塾で「働くとはどういうことか」をテーマに、企業人や高校生が自由に思いを語るワールド・カフェを開催した。

 「高校生の話に働くことの原点を思い出したり、神主の話に生きること、働くことの意味を根本から考え直すなど、質の高い対話が実現しました」

 島流地域インターンプログラムは、次代の地域おこしの担い手たちがスムーズに地域に入っていく手助けをする。

  「地域には地域の暮らし方や付き合い方があり、いきなり入っていくのは難しい面があります。都会と地域の間に海士を挟むことで、地域に入りやすくなればい いと思っています。たとえば地域では、いくら仕事の能力が高くても、約束が守れなかったり、あいさつができない人は認められません。そういう感覚を身に付 けてもらいたいのです」

 島流地域インターンプログラムは最近、いろんな可能性を見せ始めている。 ひとつは全国の大学生を対象にプログラムを組み、インターン終了後に自力で島の魅力を伝えるイベントを開催し、それを就職活動でアピールできるようにする。

 また、大学の授業の中で生かす道もある。実際、上智大学の社会学部の授業に組み込むことができた。

 「インターンシップに参加した学生で、卒論で海士のことを書きたいからと2週間、お年寄りの家に住み込んだ人がいます。幸せの定義が変わったそうです」

 海士と島外を結ぶパイプがどんどん太くなっているようである。

                                                                                                                             


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