(4)堺 寛氏

● 情報共有を社内に浸透させるためのさまざまな工夫

  堺氏が知恵DASでやろうとしたのは、業務上の困り事を社員が質問すると、社内のその分野のエキスパートが答えてくれる場づくりだ。今でこそインターネット上にはそうしたサービスが当たり前に存在しているが、当時はまだ珍しかった。

 「最初は『よくわからん』というのが皆の感覚でした。そういうものがあればいいのはわかるけど、そこまで力を入れてやるべきものか、という反応もありました」

 知恵DAS実現の鍵を握るのが、社内のエキスパートの協力だ。そこで堺氏らは、各分野のエキスパートと目される社員に、情報共有サイトへの協力に関するアンケートを事前に実施した。

 その中で堺氏が印象に残っているのが、「どういう見返りがあれば、自分の持っている知識や技術を他の人に教えようと思いますか」という問いに対する回答だ。

  報奨金などの即物的なインセンティブや、表彰され名誉につながるといった回答はそれぞれ7%ほどで、「自分の答えに対して、フィードバックや感想、意見が 返ってくればやる」という人、「時間さえあれば見返りなどなくてもやる」という人がそれぞれ半数近くいたのだ。この結果から、エキスパートに喜んで活動し てもらうには、フィードバックと、回答する時間についての社内的なコンセンサスが必要だと考えた。

  フィードバックに関して知恵DASでは、回答者に対して質問者が回答の役立ち度を5段階で評価し、感想をフィードバックできる仕組みを用意した。評価の指 標としたのは、自力でその回答にたどり着こうとした場合にかかる時間(助かり時間)で、その時間が長いほど、回答者への評価は高くなる。

 知恵DASが社内でサービスを開始してから2~3年の間、堺氏はサイトの運営や改善に取り組んだ。また、知恵DASへの参加は社員の意思に委ねられているため、社内プロモーションも重要な活動の一つだった。

 社内プロモーションの一環として当初行ったことの一つに、表彰制度がある。従来からあった社長表彰の特別賞として、四半期に一度、他者からフィードバックしてもらった時間(助かり時間)の合計が最も多かった人上位3人を「お助け賞」として表彰。

 また、質問者に対しても、助かった時間を合計し、上位3人を「他の人の知識をうまく引き出し、共有できるようにした」ことを表彰する「助かり賞」として称えることにした。社長に現場を回ってもらい、即席での表彰式も行った。

 また、社内報にも1ページ連載を設け、エキスパートへのインタビュー記事を顔写真付きで紹介した。

 「知っている人が参加しているのがわかると、その部署の人たちのアクセスがぐぐっと増えるんですよね。いろいろな工夫をするのが面白くて、文字通り寝る時間も惜しんで取り組んでいました」

 こうした活動が奏功し、知恵DASの利用者は全社に広がり、時間換算にして半年で数千時間にも上る社員の稼働コストの削減にもつながった。

 知恵DASは堺氏の手を離れた現在も全社的に活用され、テーマごとのコミュニティも増えている。テーマは仕事に限らず、「同期入社の情報交換会」「ママの会」などオフタイムのものもあり、情報共有の文化はあらゆる面に広がっている。


                                                                                  (つづく)



横浜商科大学
特定非営利活動法人 キャリア・コンサルティング協議会
NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会