(4)近澤洋平氏

●コーチングによる社内風土改革

  2001年には人事部に異動し、会社全体の研修を担当することになった。

 「私の転機となった、あのとんでもない薬は、この会社がつくったものでした。先生は『あなたのおかげだよ』と言ってくれましたが、そのバックには、社内のいろいろな人の協力がありました。その恩返しをしたいという気持ちで、教育に情熱を傾けました」

 2003年にはマネジャーを対象に、当時まだ一般に知られていなかったコーチング研修を導入する。

  「私のように全く存在価値がないと思っていた人間が、『この人のおかげ』と言われるような人間になるには、私が経験したようなきっかけが必要です。私はた またまそれを医療の現場で経験できましたが、誰もが経験できることではありません。それなら、マネジャーがそういう機会をつくればいいということで、マネジャーを対象にコーチング研修を導入したのです」

 近澤氏が人事部に異動したころ、会社は一番厳しい時期を迎えていたという。

  「毎年採用人数は減り、優秀な人間は辞めていきました。そのころ、会社が過去最高の売上を達成したのですが、MRには達成感がありませんでした。対外発表 の売り上げ目標数字よりもはるかに高い目標をMRは課されていたのです。これでは、MRがやる気をなくすのも無理はありません」

 もともと第一製薬は、第一次世界大戦が勃発して、敵対国になったドイツから医薬品を輸入できなくなった時に、自分たちの手で品質第一の医薬品を作ろうと始まった会社である。

 「そういう誇りを持って先輩たちが脈々と継承してきた会社なのに、こんなていたらくでどうする、という気持ちでした。とはいえ、私は社長ではありませんから、自分のポジションでできることを最大限やろうと考えました」

 そこで近澤氏は、コーチング研修を単にマネジャーを強化するためではなく、会社の風土を改革するために導入したのである。

 しかし近澤氏がコーチングを勉強してわかったのは、これほど厳しいものはない、ということだった。どれだけ本人の職務にコミットさせて、最高のパフォーマンスを発揮させるか。“本気”にさせるのがコーチングだと気づいた。

 従来のマネジメントは、「おまえ、こんな数字じゃ会社に戻ってこれないよ」と“必死”にさせるだけのもの。「必死というのは、継続することはできません」と近澤氏は言う。大切なのは、いかに本気にさせるかなのだ。

  「多くの人は、第一製薬に志を持って入ってきているんです。私にはありませんでしたが(笑)。じゃあ、なぜ志をなくしてしまったのか。志は会社の理念にも うたわれているのに、なぜなくさなくてはいけないのか。厳しい状況の中で、みんなで本気になって理念を実現するために、コーチングは有効だと思いました」


                                                                                  (つづく)


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