(6)田辺 大氏

•起業の民主化を目指そう

 田辺氏は最近、「社会起業家」の普及に力を入れている。

「誰でも新しいことを始められる『起業の民主化』がフォレストの使命であると再認識しました」

 10年10月からはNPOと共同開催で「社会起業家プロフェッショナルスクール」をスタートさせた。第1回は札幌の会場と東京・国立の市民活動団体を、動画共有サービスのユーストリームでつないでワークショップを行った。

 昨年はアメリカや上海へのツアーも企画した。この2回のツアーから大変強い刺激を受けたようだ。

 アメリカツアーは、ハーバード大学のビジネススクール、ケネディスクールで毎年開かれる社会起業家の世界大会への参加である。そこで「度肝を抜かれる」衝撃映像に出会った。基調講演で使われた「裸の男とリーダーシップ」という映像だ。

 ある音楽祭でのこと。パンツだけの男が手足を滅茶苦茶に振って踊っている。まるでバカげている。そこへ1人加わって、友達を手招きする。すると、また1人、また1人と加わって、最後はみんなが踊り始め、ムーブメントが起こるという内容である。

 ナレーションは語る—「リーダーシップは、称えられ過ぎているのだ」「単なる1人のバカをリーダーに変えたのは最初のフォロアーだ」と。

「この映像から『経営とは自らが不完全であることを知るプロセスである』というメッセージを読み取りました。ベンチャーは1人でやろうとしてもうまくいきません。09年の自分の姿がそうでした。やはりミッションを合わせるのが大事だなと思います」

 田辺氏はリーダーシップのあり方に強い示唆を受けた。

 上海の起業家を訪ねるツアーでは、中国人の旺盛な起業家精神に圧倒された。

「シリコンバレーのイノベーターと見紛うような動きが出てきています。たとえば、フリーランスが働く場所や時間をシェアし、人脈を広げられるようなインキュベーションオフィスを提供する事業が現れています」

 田辺氏はこうしたツアーや、自身が手掛けるオフィスマッサージの事業から、これからの日本を活性化させるヒントを得た。

「多様性と起業家精神です。エジソンは学習障害があったと言われますし、ベートーベンは耳が聞こえなかった。障害者がイノベーターとしての力を発揮できれば活気が出ます。同時に日本人が明治時代に発揮したような荒々しいまでの起業家精神のDNAを思い出せば社会は活性化していくと思うのです」

 田辺氏が社会起業家の普及に注力する理由である。

 そして、もう一つ、今後の目標が、障害者の就労支援を“輸出”することだ。

「実は東アジアはあんま文化圏です。中国や韓国でオフィスマッサージ事業を紹介したら、『輸出してください』と。上海やソウルと連携して事業化していきたいと考えています」

 日本がアジアで貢献できるのは、何もハイテクや自動車といった産業だけではない。社会貢献もまた日本からのインプットを求められている。田辺氏は、社会起業の実践者としてそう感じている。社会を変えていこうとする胎動に、田辺氏も響き合いながら活動を国内外に広げていく。

                                  (田辺氏の回おわり)

【プロフィール】
たなべ・ゆたか
1970年埼玉県大宮生まれ。1994年に中央大学法学部を卒業後、自動車メーカー、外資系コンサルティング会社のプライスウォーターハウスクーパースコンサルタント勤務を経て、2003年1月に社会起業のインフラを創る会社として、有限会社フォレストを創業。妹が盲ろう者(目と耳の両方に障がいがある人)と結婚をした事から、障がい者雇用創出事業の必要性に気づき、2006年6月からオフィスマッサージ「手がたり」を開始。社会的使命は起業の民主化(誰もが新しい事を始められて、誰もが輝く社会)。東京工業大学大学院社会工学専攻博士後期課程にてソーシャルイノベーションを研究。ブログ「社会を変えよう- 社会起業家入門」http://fp.cocolog-nifty.com/se/ Twitter: @YutakaTanabehttp://twitter.com/yutakatanabe


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