(4)田辺 大氏

•オフィスマッサージの成功

 突破口が開くのは、知人の紹介で化粧品会社を訪ねてからである。

 この業界は女性も主力として働いている。化粧品はモデルチェンジが速く、売上の動きも激しいため、本社の商品企画やマーケティングの担当者は気が休まらない。マッサージは歓迎されるのではないか。そう言われて、化粧品会社の担当者に会いに行ったのである。

 タイミングもよかった。

「その会社はES(従業員満足)第一主義を掲げていましたが、具体的にどういう形で実現したらいいか悩んでいたところでした。オフィスマッサージは非常に分かりやすい形でした」

 最初の訪問の翌朝、田辺氏がパソコンを開くと、先方から「決まりました」とのメールが入っていた。あれだけ顧客開拓に苦労していたのに、決まるときは決まるものである。

 オフィスへの訪問マッサージは月2回でスタートしたが、すぐに月4回に増える。障害者の「売り込み」が効いた。

 化粧品会社の社長がマッサージを受けにきたときにこう話したのだ。「マッサージを受けたいが、訪問日が少なくてなかなか受けられないという声があるんですよ」と。よくマッサージを利用していた社長は、「総務課長に伝えておくから」。

 訪問回数は月2回から4回と倍になった。が、まだまだスタッフが食べていくには足りない。1日の設定料金は5万2500円。これで障害者とコンダクター(介助者)、そしてフォレストの維持費などを捻出しなくてはいけない。先にもふれたように障害者のマッサージ師が働く場合、人件費は介助者と合わせて倍にならざるを得ないのだ。

「顧客のカルテを管理する必要があるので、コンダクターを抜きにはできません。リスク管理の面でも不可欠です。仮にビルで地震や火災が起きたとき、介助者が避難経路へと導かないと危険です」

 さらにIT企業や外資系金融機関に営業をかけた。そのうちオフィスマッサージの取組みがメディアにも紹介され、先方から電話がかかってくるようにもなる。訪問マッサージの事業は順調に伸び始める。

 07年から09年にかけて、フォレストの陣容は障害者が4人、コンダクターがフルタイム2人、パートタイム4人にまで拡大した。会社の役員も1人増えた。導入実績は18社を数えた。田辺氏のコンサルティングスタイルも変化する。

「忙しくなってきたので、個別のNPOコンサルティングはやらずに、講演やセミナーの形でお話しすることが多くなりました」

 フォレストのスタッフとしてではなく、直接、企業の社員あるいは契約社員として雇用される障害者も増えていった。

 事業は成長軌道に乗り、障害者の雇用ばかりか、健常者の雇用も作り出せたという手ごたえを感じ始めていた田辺氏だった。だが、その後に強烈な逆風が襲うのである。

                                      (つづく)


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