(5)鈴木崇之氏

草の根リーダーを増やして風土を変える

「私がやる!」プロジェクトを牽引

【後編】

(元)帝人グループ
「私がやる!」プロジェクト 事務局

(現)帝人ファーマ株式会社
 戦略企画室 医薬医療企画部 事業企画グループ 
 担当課長

鈴木崇之 氏
 
  自らが主体となって会社の風土を変え、一人ひとりの活力を上げていく「私がやる!」プロジェクトに、事務局として推進役を買って出た鈴木さんは、次第に活 動にのめりこんでいきます。改革を進めるときに、困難なできごとや紆余曲折は付きもの。組織内の多様なメンバーの想いを受け止めながら、変革に向けてのエ ネルギーを高めなくてはなりません。インタビューの最後は、「風土改革活動のキモ」について、実践を通じて得られた知見を語っていただきました。



● 事務局に求められる

   役割とスタンス


 組織風土改革の事務局に求められる重要な役割は何か。鈴木氏は、「トップの応援を勝ち取ること」を一番に挙げる。

 「私がやる!」プロジェクトで、鈴木氏は、活動に対するCEOの応援メッセージを引き出してイントラHPに公開し、年に一度、経営会議で活動成果と課題、次年度のアクションプランを報告した。 

  「定期的な報告を継続することによって、経営陣から温かく見守ってもらえたことは大きかったです。何もないところから始まったボトムアップ活動ですから、 特にスタート時に冷ややかな目線にさらされることが多かった。だから、成功事例を人事部門内で共有することだけでは不十分で、トップの応援を多くの社員に 見せつけ続けなければ、あっという間に潰れてしまうと必死でした」

 組織の変革活 動の場面では、よく、「トップが応援してくれない。本気ではない」などと不満をもらす事務局スタッフがいるが、「それは応援しないトップが悪いのではなく て、トップを本気にさせられない事務局の力量不足なのだと思います。厳しい言い方かも知れませんが」と鈴木氏は指摘する。 

 では、どのような事務局のスタンスが求められるのだろうか。

  「『一緒に成長する』というスタンスが大事だと思います。これは私自身の失敗体験からきた考え方です。私はつい上から目線で参加者を指導しようとしていま したが、まずこちらが変わらなければ、相手も変わってくれないのですよね。奥さんを変えようとして成功したことのある夫はいないと思いますが、それと同じ です(笑)」 

 では、具体的にはどのような姿勢で臨んだのだろうか。ふつう、研 修となると事務局は教室の後ろに座って、研修生とは別の立場にいることが多いものだ。しかし鈴木氏は、草の根リーダー塾では、必ず参加者と一緒に講義を受 け、ワークやセッションでも研修生の一人として学んでいた。

 「リーダーもフォロ ワーもお互いに成長課題を抱えているという前提に立ったほうが、『一緒にがんばろう』という気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。人間力を磨く研修を 準備したからと言っても、事務局が参加者より人間力が高いとは限らない(笑)。等身大の自分でいいと思います。私自身が未完成な自分自身を受け入れること で、相手に寛容になってきた気もします。以前は『自分に厳しく、人にはもっと厳しく』だったのが、少しだけ(笑)人にやさしくなってきたみたいですから」

● リーダーシップに必要な

   自分をさらけ出す力
 

 リーダーシップで大事なものは、率先垂範や高い志、決断力などとよく言われる。しかし鈴 木氏はむしろ、ありのままの自分をさらけ出す力、たとえば、喜びを素直に表現するとか、人前で泣けるとか、成功体験より挫折経験を語るとか、ちょっと抜け ているとか、フォロワーに対して自然体で接することが大事ではないかと言う。

  「『人間力を養う草の根リーダー塾では、チームビルディングを目的として『自己開示』というセッションを行います。10人くらいが輪になって、自分のこと を20分で語る場です。20分も自己紹介をしたことのある人はそういないでしょう。まして、3~4時間、誰かの人生の話をひたすら傾聴できる機会もめった にないと思います」

 一般的な『自己紹介』では、背伸びした自分、着飾った自分、ちょっと背伸びした自分を表現しがちだが、『自己開示』のセッションでは、弱い自分、ダメな自分、情けない自分といった等身大の自分を中心に語るという。

 「仕事の話よりは私生活、成功談よりは失敗談や挫折経験、かっこいい目標よりはこっぱずかしい夢。そんな風に、いままであまり他人に見せていなかった自分をさらけ出すトレーニングなんですね」

 この自己開示セッションの体験者には、どんな変化が起きるのか。

  「半日くらいかけてこれを体験すると、初対面同士でも劇的に仲良くなれます。心の距離がグッと縮まるんですね。自分の話を聴き切ってもらえる嬉しさ。職場 では感じたことのない安心感あふれる空気。それが短時間でチームの一体感を生むんです。10回飲みに行く以上に仲良くなれますから、時間をかけているよう で、実はとても効率のいいコミュニケーションの手法なんです。プロジェクト全体としては、あちこちの職場やチームから、このチームビルディングの研修を やって欲しいという申し出がありましたから、要望があれば職場に伺って私自身がファシリテーターを務めました。ある課長から、『職場が劇的に変化した』と 感謝されたこともあります」

 自己開示セッションは鈴木氏のリーダーシップに何をもたらしたのだろうか。

  「私自身の人間観が変わったと思います。事務局として400~500人の『人生』を耳にする機会があったわけですが、誰もがその人なりの背景を持ってい て、普段は見せない悩みやトラブルを抱えていたりします。単に仕事ができるできないだけでは判断できない、その人の深みとか意外な一面に驚かされました。 一人一人に対して以前より敬意を払うようになったといいますか、相手の自尊心を尊重しなければ人はついてきてくれないと気づかされました」


横浜商科大学
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